2023.09.12 and 13 Early Autumn Joint Recital

イヴ・アンリの演奏を聴いて

 

9月12,13日連日、わが愛するピアニストのイヴ・アンリがジョイントリサイタルのとりを勤め12日はシューマンを、13日はドビュッシー、フォーレ、ラヴェルを弾いてくれた。1981年のシューマン国際コンクールで第1位を取り、2016には同コンクールの審査員を勤めた彼はシューマン第一人者だ。

彼の演奏はピアノを弾いているというより、ピアノに向かって頭を下げ、ピアノと二人で、ピアノ語で曲の心を語らっているように映った。われわれの人と話す言葉に自然な抑揚があるように、ピアノに向かってピアノ語で話す彼の口調(手調)にも自然で繊細な抑揚があった。出だしの話しぶりが丸くやわらかで光輝いていたし、静かなトーンで話すシューマンはしんみりとして哀調を含んでいた。私はそこに薄紫色をしたpaleな味を感じた。

13日のドビュッシー、フォーレ、ラヴェルにもその曲にふさわしい感情がこもっていた。ドビュッシーの前奏曲集の「音と香は夕暮れの大気に漂う」は表題どおり軽快な音のグラデーションがきれいで夕焼け空を眺めている風情があった。

同じピアノを弾いてもアンリと日本人の音は質的に違うように私には思えた。アンリの音が、たとえば草書とすると日本人の音は楷書か行書に聴こえる。何故だろう。そんなことを考えながら飽かず彼の演奏に耳を傾けていた。